YOKOHAMA

 

夜、それも気温20℃前後の夜。 

自分の為に使えるわずかな時間ができれば雑事から離れて、どこかその辺りを風を受けて走りたくなる。

これはオートバイを所有するライダーなら誰しもが思うことかもしれない。「パララン、パララン」とエンジンの排気音を轟かせて若者がお調子にのるのもこの季節である。

 

走るに理由はなく、強いて挙げれば「気持ち良さ」が最大の理由ではあるが、男が持つ、子供心、旅心を充足させるために走るとも言える。

そんな時、横浜の海岸線は格好のツーリングコースとなる。

首都高を抜け、ビルの谷間を駆け抜けるのも一興だが、横浜の大桟橋を折り返し地点と決め、その手前にあるジャック カフェでコーヒーを頂き、しばし夜の海と、街中を行き交う人や車を眺めて過ごすのは至福のときである。

 

夕暮れの大桟橋から海と、ビルの谷間に落ちる陽を眺め、夜の帳が下りた後一杯のコーヒーを飲む。週末だと、ちょうどサザエさんが始まる夕飯前。すなわち、この時間に自分の自由な時間など持ち得ないのが世のお父さん達な訳である。

だからこれはお父さんにとっては夢のような話なのである。

 

さりとて、家族が寝静まった深夜にオートバイで家を出れば、十中八九 離婚の危機に直面することであろう。

 

さて、間も無く気温は20℃へと向かう。

春の夕暮れ時。横浜のジャックカフェにオートバイで現れ、コーヒーを飲んでいるお父さんがいたら彼は世界で一番幸せな人であると断言できる。

それほど、夕暮れと一杯のコーヒーは遠い存在なのである。